doubleを-malign-doubleオプションで8バイトアラインメントにする具体的なメリットはなんでしょうか?
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gcc マニュアル x86 によると
double
long double
long long
を32ビット境界に載せるか64ビット境界に載せるかが変わる- Pentium 等では少し高速化する(少量のメモリの犠牲と引き換えに)
x86-64
ではデフォルトで有効
とあります。最後の項は微妙に不正確というか x86-64
では常に -malign-double
が有効で -mno-align-double
は無効化されています。
で、何が嬉しいのかというと、その辺はハードウエア仕様を知らないと理解しがたいです。厳密さに目をつぶっておおまかな話をすると
- 32bit CPU というのはバス幅が 32bit です。よって1回のバスアクセスで 32bit の値を読み書きすることができます。つまり
double
1つの読み書きには2回のバスアクセスが必要です。 - 64bit CPU というのはバス幅が 64bit です。よって1回のバスアクセスで 64bit の値を読み書きすることができます。つまり
double
1つの読み書きには1回のバスアクセスが必要です。
上記の話が成立するのは整合がとれている場合に限ります。 64bit な値つまり double
が 64bit に整合していないと、バスアクセスが2回必要になるのは理解できるでしょうか?図示するとわかりやすいんですが AA 下手なので略。
というわけで「整合をとると、ハードウエア的にバスアクセス回数が減るので高速化できる」というのが答えとなります。
-malign-double
なオブジェクトと -mno-align-double
なオブジェクトは (x86 32bit では) struct
等の整合が違ってしまい非互換になるので混ぜるな危険です。
なんかうまく説明しきっていない気がしたので追記
32bit CPU と 32bit OS/アプリの組み合わせでは -malign-double
を指定してもしなくても速度に一切変化がない(バスアクセス回数に変わりはない)わけです。混ぜるな危険の分、指定しないほうが無難そうです。
64bit CPU と 32bit OS/アプリの場合のみ、バスアクセス回数が1減る可能性が高まり( -malign-double
を指定していなくても 64bit 境界に載っていることは普通にあるので常に効果があるわけではない)その分高速になる、のでしょうが x86 では L1 cache のアクセス回数が1減っても体感できるほどの差は出ません。
64bit CPU と 64bit OS/アプリの場合は最初から -malign-double
は有効で、無効化できませんのでそもそも違いがないし。
ということで体感できる差が出るとしたら
- ハード的には 64bit CPU が普及したがソフトはまだ 32bit が主流な短期間だけ
double
の演算をひたすら繰り返す数値解析ソフト (32bit) を使う
時くらいです(真の逸般人ならソフトも即 64bit に移行しているはずなので、この状況に該当するとしたらえせ逸般人であろう)。
一般人が一般的な使い方する分には目に見えるほどの速度向上効果は望めず、メモリ消費量だけ微妙に増え、ということでメリットはあまり体験できず、 struct
が ABI 非互換になるデメリットだけありそうです。コンパイラ実装者は当然その辺全部理解しているので、デフォルトで有効になっていないコンパイルオプションにはそれなりの理由がきっちりあります。それをあえて我々末端ユーザーが指定するときにはリスクとメリットを理解したうえで行うことが大事です。
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ところでVisual C++では32bitのx86であっても既定で8バイトアラインなので、gccにおける-malign-double状態なんですよね…。– sayuriCommented 2021年12月7日 13:28
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オイラの解説が該当するとしたら真に 32bit な CPU つまり i386 の頃の話で win3.1 が 1991 年だから30年前のこと。まあ今どきの x86 を想定すると時代が違いすぎるとかなんとか。– 774RRCommented 2021年12月8日 0:27
774RRさんが匂わせているように、多少古い話題なようです。
Intelの見解
SSE2などが登場する以前ですがインテル・アーキテクチャ最適化マニュアル(1997年)に
3.4.2 データ
Pentium プロセッサでは、データ・キャッシュ内またはバス上でアライメントが合わないアクセスを行 うと、最低 3 クロック・サイクルの余分なコストを要する。Pentium Pro および Pentium II プロセッサでは、データ・キャッシュ内でアライメントが合わない (キャッシュ・ライン境界にまたがる )アクセスを行 うと、9 ~ 12 クロック・サイクルのコストが生じる。どのプロセッサ上でも最高の実行パフォーマンスが得られるよう、データのアライメントを以下のガイドラインに従って境界に合わせるようお勧めする。
- 8 ビット・データは任意の境界にアライメントを合わせる。
- 16 ビット・データはアライメントが合った 4 バイト・ワード内に収まるようにアライメントを合わせる。
- 32 ビット・データは 4 バイトの整数倍の任意の境界にアライメントを合わせる。
- 64 ビット・データは 8 バイトの整数倍の任意の境界にアライメントを合わせる。
- 80 ビット・データは 128 ビット境界 (すなわち、16 バイトの整数倍の任意の境界 )にアライメントを合わせる。
とあり、適切なパフォーマンスを得るためにはdouble
は8バイトアラインとすることを推奨しています。同書には
3.5.1.5 メモリ内およびスタック上のデータのアライメント合わせ
Pentium プロセッサでは、8 バイト境界にアライメントが合っていない 64 ビット変数にアクセスすると、3 サイクルの余分なコストを要する。Pentium Pro および Pentium IIプロセッサでは、そのような変数が 32 バイト・キャッシュ・ライン境界にまたがっていると、D C U スプ リットを生じることがある。市場に出回っているコンパイラのなかには、倍精度データのアライメントを 8 バイト境界に合わせないものもある。
と愚痴のような記述も見られます。
LinuxなどUNIX全般の見解
Linuxなどが参照しているSYSTEM V APPLICATION BINARY INTERFACE Intel386 Architecture Processor SupplementのFundamental Typesには標準仕様として double
は 4バイトアラインとすると記されています。その下には
The Intel386 architecture does not require doubleword alignment for doubleprecision values. Nevertheless, for data structure compatibility with other Intel architectures, compilers may provide a method to align double-precision values on doubleword boundaries.
と書かれていて、8バイトアラインされることも知ってはいるようです。
gccの見解
というわけで、gccとしてはプラットフォーム仕様に従い、4バイトアラインとしつつも、適切なパフォーマンスを得るための選択肢として8バイトアラインさせる-malign-double
を用意している、ということだと思います。
Windowsの見解
ちなみにWindowsでは/Zp (Struct Member Alignment)で
- x86、ARM、ARM64は8バイトアライン
- x64は16バイトアライン
としていて、Intelの推奨に沿っていて、-malign-double
相当が既定値です。
最近の動向
SSE命令の登場で状況は一変しています。以前の命令と異なり、SSE命令ではデータアラインが必須になっています。例えばSSEは128bitデータを扱うため、128bitすなわち16バイトアラインする必要があります。
そのため、インテル 64 アーキテクチャー および IA-32 アーキテクチャー 最適化リファレンス・マニュアル(2011年)などを見ても、8バイトアラインの話題は消え去っています。