こんにちは。
ここからが本題なのですが、もしこのアプリケーションをクラウドサービス化したとしたらどうなるでしょうか。
「プロジェクト集約」とか「人員集約」とかは、サービスの契約者ごとに管理されなければなりません。
つまり、「サービス契約者ID」と「プロジェクトID」が揃わなければ、「プロジェクト」が特定できません。
ここに答えがでていますね。答えは要件次第ですね。要件によって構築されるユビキタス言語の世界観によってドメインモデルはいくらでも選択肢があります。いきなりドメインモデルを考えるまえにそのモデルが使われる目的や意図について考えたほうがよいですね。DDDにも声に出してモデリングするという話が出てきますが、ユーザストーリのような文章にして5W1Hを明確にしてみるとよいかもしれません。
ということで、サービスの契約者というのがどういう概念を表すかはそれを語らなければ、伝わりませんからね。
ここからは僕の勝手な妄想としてお読みください。
自社が提供する、マルチテナンシーなクラウドサービスを考えると、以下のようなストーリがありえそうです。
- システム管理者は、顧客を作成できる。同時に顧客管理者が作成される。
- 顧客管理者は、自顧客を更新できる
- 顧客管理者は、ユーザを追加できる
- 顧客管理者は、顧客IDを指定して、複数のユーザを取得できる
- 顧客管理者は、ユーザIDを指定して、ユーザを取得できる
- 顧客管理者は、ユーザIDを指定して、ユーザを更新できる
- 顧客管理者は、ユーザを削除できる
- 顧客管理者は、プロジェクトを作成できる
- ユーザは、顧客IDを指定して、複数のプロジェクトを取得できる
- ユーザは、プロジェクトIDを指定して、プロジェクトを取得できる
- ユーザは、プロジェクトIDを指定して、プロジェクトを更新できる
- 顧客管理者は、プロジェクトIDを指定して、プロジェクトを破棄できる
- ユーザは、プロジェクトIDを指定して、タスクを作成できる
- ユーザは、プロジェクトIDを指定して、複数のタスクを取得できる
- ユーザは、タスクIDを指定して、タスクを取得できる
- ユーザは、タスクIDを指定して、タスクを更新できる
- ユーザは、タスクIDを指定して、タスクを破棄できる
ドメインの観点でいうとグルローバルな識別子を持つエンティティで、ライフサイクルの観点でいうとグローバルな識別子を持つ集約は、以下になるのではないでしょうか?
- 顧客
- 顧客管理者
- ユーザ(人員?)
- プロジェクト
- タスク
また、「タスク」は「プロジェクト」の集約に含まれそうなので、そういったIDは付けません。
このようにしてしまった場合、タスクはプロジェクトを説明する属性になります。当然ですが、タスクは独立して存在することが基本的にはできません。プロジェクトを特定してからタスクを検索することにななると思います。これは概念的な塊とか境界の定義の話ですが、技術的や性能上の観点と観ると、集約はデータを取り扱う境界にもなるので、タスク単独でI/Oはできずプロジェクト単位でしかI/Oできません。僕もいつも悩むところですが、概念と性能の二つの側面でトレードオフがありますね。
次にタスクをエンティティにするか、値オブジェクトにするかという話ですが、仮にタスクを値オブジェクトにしてしまった場合は、あるプロジェクト内で目的のタスクを検索することは不可能になります。タスクが持つ属性(タスク名や説明など)は時とともに変遷するので特定ができなくなります。特定するようなモデルは識別子を持つエンティティにすべきですね。
エンティティにも、グローバルな識別子を持つエンティティ(グローバルエンティティと呼びことが多い)と、集約内でローカルな識別子を持つエンティティ(ローカルエンティティと呼ぶことが多い)があります。
さて、今回の場合どちらが好ましいでしょうかね?
ストーリから素直に導くと、グローバルなエンティティになるのではないでしょうか?(個人的な見解)
タスクを扱うのに、必ずしもプロジェクト情報が必要かというとそうでもないと思います。実際そういう言葉の使い方しているなら、別ですが、タスクはそれだけの概念でひとかたまりとして扱っているのではないでしょうか?あと、タスクをプロジェクトの集約の一部に入れた場合は、タスクが増えた時に性能上の問題がでそうです。
これでは「プロジェクト集約」はグローバルなIDを持たないことになりますが、これは許されるのでしょうか?
あるいは、「プロジェクト集約ルート」は集約ルートからただのエンティティに降格するのでしょうか。
プロジェクトはグローバルなIDを持つの集約ルートであり、グローバルなエンティティですね。たぶんですが…。
そもそも集約ルートがグローバルなIDで管理されなければならない、というのがいまいちピンときていないのですが・・・
厳密にいうと集約ルートがグローバルなIDというより、グローバルなエンティティがというか話なんですが、DDD第二部のエンティティとリポジトリのところを読まれましたか?その辺に書いてます。実質、集約ルート=グローバルエンンティティです。ドメインモデルを、ライフサイクルの側面でみるか、ユビキタス言語の側面でみるかの違いです。
その、エンティティは特定が目的です。たとえば、人がエンティティだとしたら、名前や住所、年齢といった属性は時とともに変遷します。属性を使ってエンティティを特定するのは実質不可能です。そのためアイデンティティによって特定することになります。つまり識別子=IDです(不変であることが前提)。だからIDが必要なんですよね。
上位の集約のID(上記例ではサービス契約者ID)にぶら下がるのでは、ダメなのでしょうか?
どちらも問題ありませんが、ユビキタス言語によりますね。
それとも、DDD本にある「グローバルな同一性」とは、単一のIDを要求するものではなく、「サービス契約者ID+プロジェクトID」という複合的なIDであっても、OKということでしょうか?
DDD本の集約の章(車とタイヤの例)にも書いてますが、車という集約にはタイヤという部品が集約されています。要件的に、タイヤの識別や特定が不要であれば、IDを持たないタイヤ値オブジェクトを車集約に構成させますが、識別が必要なら タイヤをローカルエンティティにするでしょう。このタイヤローカルエンティティには、タイヤの取り付けポジション(左前、右前、左後、右後)をIDとするかもしれません。このIDは車内だけでユニークなIDです。グローバルな同一性か、そうじゃないかはそういう意味です。
これとは別に複合的なコンポジットIDを使うかどうかは要件次第でDDDで規定する範囲ではないと思います。