おそらくモナドの良さを分かっていただければこの「ちぐはぐ」を理解いただけると考えたので、その説明をしてみます。
>>=
、あるいは bind
とも呼ばれるこの関数には色々と良い性質があるのですが、こと「プログラムをシンプルに書きたい」という側面から見ると、do 記法(do notation)と呼ばれる略記法と一緒に使うことで真価を発揮します。
Maybe Int
型の値を受け取り、もし Just x
が入っていれば Just (x + 1)
を返す関数を実装することを考えてみましょう。この関数はパターンマッチを使うことで以下のように書けます。
incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe Nothing = Nothing
incMaybe (Just x) = Just (x + 1)
この関数では、Nothing
なら Nothing
、Just
なら中身を取り出して演算した上で再度 Just
で包む、ということをしています。Maybe
型を使った処理を書くときには良く出てくるパターンです。
この関数は >>= :: Maybe a -> (a -> Maybe b) -> Maybe b
と return :: a -> Maybe a
を使って以下のように書くこともできます。型をよく見て、これで良いことを確認してみてください。たとえば Nothing
を与えたら Nothing
が返ってくるでしょうか。Just 42
を与えたら Just 43
が返ってくるでしょうか。
incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe x = x >>= (\y -> return (y + 1))
さて、>>=
を使った実装だと、さっきまであったパターンマッチはどこに消えてしまったのでしょうか。実はさっきまで存在していたパターンマッチの部分を >>=
が担ってくれています。そもそも Maybe
モナドの >>=
はたとえば次のように実装されるのでした。
(>>=) :: Maybe a -> (a -> Maybe b) -> Maybe b
Nothing >>= _ = Nothing
(Just x) >>= f = f x
これが >>=
の便利なところです。Maybe
という「値がある "かもしれない"」という計算を上手く処理してくれるのです。これがちゃんとできるということを確かめるにはモナド則というルールを確認することになるのですが、ここでは詳細には立ち入らぬこととします。
ところで、この >>=
を使った実装はいささか大変です。たかが +1 するためのことに記号が乱立しています。そこで、もっと簡単に実装するために出てくるのが do 記法です。do 記法を使うと上と同じことをする関数を以下のとおり書くことができます。
incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe x = do
y <- x
return (y + 1)
詳しくは別途調べていただきたいのですが、これは先ほどの >>=
を使った実装と同じ挙動を表しています(構文糖衣になっています)。Nothing
と Just x
の取り扱いをモナドの側に任せ、コアとなるロジックの部分だけを書けるのがお分かりかと思います。このように >>=
または do
を使って書いていくことによって上手く計算を分離し、シンプルに書けるというのが >>=
の良さのひとつです。質問文中に引用されている文章から採用して言い換えると、「外と中を分離するための仕組み」のための道具のひとつが >>=
なのです。
余談:incMaybe
はこう書くこともできます。(+ 1)
というのは \x -> x + 1
とほぼ同じ意味です。
incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe = fmap (+ 1)