まずは整数がどのようなビット列として考えられているのかを理解する必要があります。
まずビット列とは何かです。始めに、Rubyのビット演算の基になったCでの場合を考えます。Cのint
は環境依存の範囲の符号付き整数を表します。現在の多くの環境(Windows,Mac,Linuxでのx86,x86_64,arm等)では $2^{31}-1$ ~ $-2^{31}$ で4バイト(1バイトは8ビット)、つまり、32ビットになっています(範囲やバイト数、1バイトあたりのビット数は環境依存であり、これにあてはまらない環境も存在することに注意してください)。実際の値はメモリ上のビットとして存在しており、0と1の列として表現されます。これがビット列です。数字の42
を表現した場合は次のようになります。
00000000 00000000 00000000 00101010 (42)
メモリはバイト毎に管理するため、8ビット毎にまとめた形で記録されています(わかりやすいように8区切りにしたのはそのためです)。また、アーキテクチャによって、上位バイトから収める場合(ビッグエンディアン)と下位バイトから収める場合(リトルエンディアン)の二つがあります。これはメモリ上の配置の問題であり、ビット列としてはまとめて一つの列として扱われるため、どちらであっても関係ありません。
正の数は上のように2進数表記と同じになります。0は全て0になるだけですので、こちらも問題ありません。問題となるのは負の数の表現方法です。ビット列における負の数の表現には主に二つの方法があります。一つが1の補数、もう一つが2の補数です。
1の補数は単純に全てのビットを反転することで表現します。-42
は次のようになります。
00000000 00000000 00000000 00101010 (42)
↓↓ 各ビットを反転 ↓↓
11111111 11111111 11111111 11010101 (-42の1の補数表現)
しかし、ほとんどの環境では2の補数を採用しています(1の補数を採用している環境が現在も存在するかは不明ですが、Cの仕様上は1の補数もあり得ます)。2の補数は表現可能なビット列より1桁だけ大きい数からその数の絶対値を引いた数のビット列が負の数になります。
1 00000000 00000000 00000000 00000000 (2の32乗、最大値を超えている)
- 00000000 00000000 00000000 00101010 (42)
= 11111111 11111111 11111111 11010110 (-42の2の補数表現)
ここまでは整数値に範囲が存在する言語での話です。Rubyの整数値であるIntegerは(メモリが許す限り)無限の範囲を持っており、どこまでも大きくなります。そのため、ビット列というものも無限の大きさで考える必要があります。
Rubyのビット列の考えはCと同じです。負の数についても2の補数表現を使用します。しかし、無限の大きさになるため、無限に大きいビット列であると考える必要があります。
...0000 00000000 00101010 (42)
...
の部分はその後の部分の繰り返しが永遠に存在する、つまり、0または1が無限にあると考えてください。2の補数を考えるときは表現可能なビット列より1桁大きいと言うことでしたが、今回は無限の大きさです。そこで、無限遠の先に1があると想定して考えます。
100...0000 00000000 00000000 (無限大の一つ先の数)
- 00...0000 00000000 00101010 (42)
= 11...1111 11111111 11010110 (-42)
数学的には間違っていますが、イメージとしては上のような形です。無限と言うよりも「十分に大きい」という表現のほうが数学的には正確になると思います。
では、ここからビット反転を考えてみましょう。1の補数であれば負の数にするだけでしたが、2の補数ですのでそうはいきません。
...0000 00000000 00101010 (42)
↓↓ 各ビットを反転 ↓↓
...1111 11111111 11010101 (~42)
この数がいくらになるかですが、符号を逆転させれば絶対値がわかります。符号を逆転する方法は負の数にした方法と同じです。
100...0000 00000000 00000000 (無限大の一つ先の数)
- 11...1111 11111111 11010101 (~42)
= 00...0000 00000000 00101011 (43)
つまり、0b101011
の負の数、-43
になります。2進数で表現すると"-101011"となるでしょうが、ビット列としては42
を反転させた物になると言うことです。
長々と説明しましたが、2の補数表現におけるビット反転は「正負を反転させて-1した数」と同じになります。上では42
で考えてみましたが、10
(0b1010
)の場合はどうなるかは自分で考えてみてください。
【補足】
Ruby 2.3.xまではIntegerは実装上FixnumとBignumの二つに分かれていました。これは実装上の話であり、言語上は区別なく使用できました。2.4.0からはこの区別を無くし、言語上はIntegerに統合されています( 実装上は依然として二つ存在しますが)。30桁のビット列で考えるという解説を見ることがありますが、Fixnumの実装での話であり、全てを説明することはできません。言語仕様上はBignumのような無限の大きさの範囲で考える必要があります。