以下は、VSCode 1.72.2 で検証しました。今後のバージョンアップによって動作が変更になる可能性がありますので、ご注意ください。
簡単に言うと、エディターで開いているファイルはV8の正規表現エンジンがそのまま使用されているようですが、エディターで開いていないファイルの検索はripgrepを使用しています。詳しく見ていきます。
開いているファイルの検索の動作
こちらはソースコードを細かく追っかけたわけではないのですが、JavaScript特有の動作をしているため、V8(Chromium側がNode.js側かまでは不明、両方の可能性有り)の正規表現エンジンをそのまま使用していると考えられます。
根拠は\s
がU+FEFFに引っかかるためです(BOMである先頭のU+FEFFは除く)。ECMAScriptの正規表現の\s
は[ \f\n\r\t\v\u00a0\u1680\u180e\u2000-\u200a\u2028\u2029\u202f\u205f\u3000\ufeff]
と同等であり、U+FEFFが含まれるかなり珍しい正規表現エンジンです。他の多くの正規表現エンジンでは、\s
に[ \t\r\n\f\v]
以外にもUnicode拡張として[\p{White_Space}]
(Rust)や[\p{Z}]
(.NET)やそれらを参考にした独自のリスト(Perl?)がありますが、U+FEFFはUnicodeのZカテゴリーにもWhite_Spaceプロパティにも含まれないため、(私が知る限り)\s
に含まれる正規表現エンジンはありません。
これは「検索」(Ctrl + Fで表示される「検索」ボックスのこと)以外にも「フォルダーを指定して検索」(Ctrl + Shfit + Fで表示される左の「検索」ビューのこと)でも同様です。ファイルが未保存状態でも、書きかけのテキストに対して検索を行う動作になっているため、開いているファイルは後述の開いていないファイルの検索と別の動作にする必要があるためだと考えられます。
開いていないファイルの検索の動作
開いていないファイルは「検索」ボックスでの検索対象にはなり得ませんので、「検索」ビューでワークスペース内のファイル全てを検索するときの動作についてです。こちらはより細かく追っていますので、解説していきます。
VSCodeの中身の確認
検索を任せられることになるripgrepが実行バイナリとして同梱されています。Windowsでユーザーインストールしている場合は%LOCALAPPDATA%\Programs\Microsoft VS Code\resources\app\node_modules.asar.unpacked\@vscode\ripgrep\bin\rg.exe
になります。これがそのまま実行されることになります。手元のWindows版VSCode 1.72.2 では ripgrep 13.0.0 が入っていました。
ソースコードも見てみましょう。 https://github.com/microsoft/vscode/blob/1.72.2/src/vs/workbench/services/search/node/ripgrepTextSearchEngine.ts にて次のようになっています。
import { rgPath } from '@vscode/ripgrep';
@vscade/ripgrepはripgrepのMicrosoftによるプレビルドであるripgrep-prebuiltの実行バイナリを内包して、実行バイナリのパス(rgPath
)のみを提供するパッケージです。インポートされたrgPath
はasarに含まれていないため、特有のパスに変更したrgDiskPath
を、RipgrepTextSearchEngine#provideTextSearchResults()
にて、child_process.spawn()
を用いて実行されるという仕組みになっています。
実際にどのようなオプションで実行されているかは、検索が動作中に【ヘルプ】>【プロセス エクスプローラを開く】でプロセス エクスプローラー上で確認できます。(検索がすぐに終わってまう可能性があるので、たくさんのファイルがあるディレクトリー(ルートとか)で試して見てください。)
ripgrepが使用しているエンジン
ripgrepはRustで作られており、標準の検索エンジンはRustの正規表現エンジンですが、別途PCRE2を使用できます(VSCode同梱の物はスタティックリンクで組み込まれている?)。Rustの正規表現エンジンには「先読み」「後読み」の機能がありませんが、PCRE2もサポートすることで「先読み」「後読み」の機能もサポートするようになっています。
PCRE2を使用するには、オプションでPCRE2を使用するように指定する方法と、オプションで自動選択にして「先読み」「後読み」がある等必要なときのみPCRE2を使用する方法があります。VSCodeでは常に自動選択--engine auto
オプションが設定されるため、必要な時のみ切り替わるようになっています(ripgrepのREADMEでは-engine auto-hybrid
と書いてあるが、問題ないようです)。(常にPCRE2を利用するsearch.usePCRE2
オプションがありますが、自動選択が無かったころの対応として作られたものでであり、現在は非推奨(deprecated)となっています。参考)
ちょっと注意して欲しいのは、ripgrepを用いる検索といっても、使用可能な正規表現の文法はJavaScriptで使用可能な物に制限されるということです(先程の前の節の「参考」内に記載)。開いているファイルはV8の正規表現を用いるため、その動作と統一するためと思われます。
まとめ
VSCodeの検索/置換における正規表現エンジン(「検索」ビュー「検索」ボックス問わず)
- 開いているファイル: V8(JavaScript)
- 開いていないファイル
- 先読み・後読みが無い検索: Rust
- 先読み・後読みが有る検索: PCRE2(Perl)