演算精度のせいで、sqrt(n * n - l * l)
に与えられる引数の値とsqrt(n * n - d * d)
に与えられる引数の値が異なるためです。
(なお、long
の表す桁数は処理系によって異なりますが、ここでは出力例から、long
は64ビット整数型を表すものとします。)
n * n - l * l
を引数とする場合、n
およびl
は共にlong
型であり、また、途中計算のn * n
とl * l
の結果もlong
型の範囲に収まるため、計算結果は正確にlong
型の986074550526975
となり、その値が暗黙の型変換でdouble
に変換された後にsqrt
が呼ばれます。
それに対して、n * n - d * d
を引数とする場合、n * n
は一旦long
で計算され、正確にlong
型の10000000000000000
となりますが、引き算の相手のd * d
はdouble
型なので、その値はdouble
型に変換されます。
ここで肝心なのは、double
型の精度は10進換算で15〜16桁であり、10000000000000000
も94941695 * 94941695
の計算結果として期待される9013925449473025
もその限界を超えているため、double
ではそれらの値を正確には表せない のです。
言葉による説明だけは分かりにくいので、途中結果を見てみましょう。
int main(int argc, const char * argv[]) {
long n = 100000000;
long l = 94941695;
double d = 94941695;
printf("n * n [long] : %ld\n", n * n);
printf("l * l [long] : %ld\n", l * l);
printf("n * n - l * l: %.10f\n", (double)(n * n - l * l));
printf("sqrt [long] : %.10f\n", sqrt(n * n - l * l));
printf("n * n[double]: %.10f\n", (double)(n * n));
printf("d * d[double]: %.10f\n", d * d);
printf("n * n - d * d: %.10f\n", (double)(n * n - d * d));
printf("sqrt [double]: %.10f\n", sqrt(n * n - d * d));
return 0;
}
結果(<-
以下は注釈):
n * n [long] : 10000000000000000
l * l [long] : 9013925449473025
n * n - l * l: 986074550526975.0000000000
sqrt [long] : 31401823.9999999851
n * n[double]: 10000000000000000.0000000000 <- `print`で表示した結果は正しく見えるが1の位まで正確には表現できない
d * d[double]: 9013925449473024.0000000000 <- `print`で表示した結果にも誤差が表れている
n * n - d * d: 986074550526976.0000000000 <- `986074550526975`じゃない!
sqrt [double]: 31401824.0000000000
(double
は内部では2進数で表現されているので、10進数との変換の際に誤差が入ったり、逆に誤差が相殺されて見掛け上正しい値に見えてしまうことがあるので、10進表記で全てを理解しようとするのには無理があるんですが、ここでは見掛けにはっきり違いが表れているので詳細には立ち入らないことにします。)
と言うわけで、double
で計算を行う場合、途中計算まで含めて「double
の精度で正しく表せるかどうか」を気にしないと、整数で正確な計算をしたのと同じ結果にはならないことに注意しないといけません。