まずは中で何が起こっているのか把握するために、print
文で覗いてみましょう。
そのまま実行すると1万や10万回print
文が実行されるので、number引数(-n, --number)
で回数を制限します。
ついでにrepeat引数(-r, --repeat)
で試行回数(best of r
のr
に該当する回数)も減らしておきます。
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -r 1 -n 3 -s "a=map(str, range(1000))" "s=''" "for i in a: s+=i;" "print(len(s))"
2890
0
0
3 loops, best of 1: 211 usec per loop
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -r 1 -n 3 -s "a=map(str, range(1000))" "s=''.join(a)" "print(len(s))"
2890
0
0
3 loops, best of 1: 168 usec per loop
len(s)
で文字列の長さを計ったところ、2回目、3回目は0になってしまいました!
ここで本のヒントを読み解きます。
落とし穴はsetup引数の使い方と、Python3におけるmapの振る舞いにあります。
試しにsetup引数(-s --setup)を消してみましょう。
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -r 1 -n 3 "a=map(str, range(1000))" "s=''" "for i in a: s+=i;" "print(len(s))"
2890
2890
2890
3 loops, best of 1: 378 usec per loop
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -r 1 -n 3 "a=map(str, range(1000))" "s=''.join(a)" "print(len(s))"
2890
2890
2890
3 loops, best of 1: 257 usec per loop
欲しい結果が得られました。
len(s)
は常に正しい値を返し、速度もfor
文よりjoin
の方が速くなりました。
ただしsetup引数
がある時よりも速度は遅いです。
setup引数
は最初のステートメントに適用され、map
関数は初めの1回のみ初期化されて、2,3回目には初期化されません。
逆にsetup引数
が無ければ毎回a=map(str, range(1000))
が実行されるので、その分遅くなります。
ようやくpython3におけるmap
とは何かという話が関係してきます。
map
とは配列に関数を適用してイテレータ
を返す高階関数です。
ここで言う「配列」とはrange(1000)
で作成した0..999の数値です。
ここで言う「関数」とはstr
です。n=0..999の数値をstr(n)
で文字列化しています。
さてpythonのイテレータは、for
文やnext()
関数で次の値を取得できますが、いわゆるseek
やprev
のように特定の場所へアクセスしたり、前の値を取得したりすることはできません。
つまり一度for
やjoin
でアクセスすると、また先頭から読み取ることができないのです。
pythonで下記のコードを実行すると、1回目は2890が取得できますが、2回目は0になってしまいます。
これがmap
というかイテレータの振る舞いです。
a=map(str, range(1000))
s=''.join(a)
print(len(s))
# 2890
s=''.join(a)
print(len(s))
# 0
ちなみにmap
をlist
化すればイテレータではなくリストになるので、正しい値を取得することができます。
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -s "a=list(map(str, range(1000)))" "s=''.join(a)"
100000 loops, best of 3: 10.3 usec per loop
PS C:\Users\payaneco> python -m timeit -s "a=list(map(str, range(1000)))" "s=''" "for i in a: s+=i;"
10000 loops, best of 3: 176 usec per loop
速度もjoin
の方が圧倒的に速くなりました!
おそらくですが、使い終わったイテレータにfor
を実行してもループ冒頭の1回目で中断しますが、0件のイテレータにjoin
を掛けるとオーバーヘッドが発生してjoin
の方が遅くなると推測されます。
以上のことから、以下の「読者への課題」を理解しないと正しい結果が得られません。
- 毎回setupしないとイテレータを再利用できない
- mapはイテレータを作るだけなので、リストや配列にしないと罠にハマることがある