Java の仕様では、「ジェネリクスに使用される型(総称型)は Object クラスを継承していること」が求められます。よって、ジェネリクス型の変数に、Object クラスを継承していないプリミティブ型のデータを保持することはできません。 Scala の場合は、総称型が Object型なのか プリミティブ型なのかという判断をコンパイル時にしています。
件の test()
メソッドの場合、Scala のコンパイラは 型A が Object を継承した総称型と見なし、以下のような Java コードとして見なせるバイトコードを生成します。
public void test(Object init)
{
System.out.println(
(new StringBuilder())
.append("type=")
.append(init.getClass())
.toString());
}
test()
メソッドの引数 init
の型に注目してください。 Object
型ですね。
Object
型の入れ物に、 プリミティブ型の int
値を入れたならば本来、エラーとなる
ところなのですが、
int
<=> java.lang.Integer
short
<=> java.lang.Short
float
<=> java.lang.Float
double
<=> java.lang.Double
以上のような型変換が可能な場合、コンパイラは int
型を Integer
型に
相互暗黙変換させるおせっかいなコードを組み込みます。今回は int
型の値が test()
メソッドに引数として渡される直前に java.lang.Integer
型の値に自動変換されることになりました。結果、 getClass()
が、 java.lang.Integer
を返すことになりました。
補足:
Scala の Int
は、プリミティブ型 (Java の int
) であると対応付けしてしまいがちですが、そうではありません。Scala の Int
は、最適化のためにコンパイラに特別扱いされて扱いが煩雑になっています。Scala のコンパイラは、scala.Int
で記述されたものをできるだけJava の int
型として扱おうとしますが、やむ終えない場合は、Integer
としてもあつかえるよう、魔法の/保険のコードを付加したりします。
コンパイラは、大方のところ int
及び java.lang.Integer
を隠す良い仕事しますが、それは完璧ではないことがあります。例えば、今回の例に似た以下のコードをコンパイルしてみてください。(Scala 2.9.3 以前限定。)
case class GenericsIntBug[A <: Int]() {
def test(init:A) = {
println("type=" + init.getClass)
}
}
すると、コンパイルが通るものの、実行時に必ず例外の発生するメソッドが出来上がります。バイトコードを見ると、このメソッド内部では、プリミティブ型 int
のデータを扱いながら、そこに存在しないメソッド getClass()
を呼び出そうとしています。 Java であれは、以下のようなコンパイル不能のコードです。
public void test(int init)
{
System.out.println(
(new StringBuilder())
.append("type=")
.append(init.getClass()).toString());
}
面白いので、興味があれば scala.Int を使った処理を一度ディスアセンブルして見ることをお勧めしますよ。
(補足の例の詳細は このGist に張りました)