私の立場は、メールアドレスを扱うシステム作る側でもありますが、組織内でどのようなメールアドレスを作っても良いか技術面から決める側でもあります。そのため、質問の趣旨と微妙にずれているかも知れませんが、どのようなメールアドレス生成を許可するのかが関心の中心となった回答になっている事にご配慮ください。
考えるべきリスクは二つかと思います。
- 自分のシステム上で不具合が起きる可能性があるかどうか。
- 他人のシステム上で送信できない・登録できない等の不都合が起きる可能性があるかどうか。
しかし、実際は1.ではなく2.についてのみ考えるべきです。なぜなら、どのようなメールアドレスでも、可能な限り扱えるべきであるし、拒否すべきでは無いためです。しかし、それがもっともな理由であれば、拒否することもやぶさかでは無いと思います。
そこでまずは、各システムや実装、その他において、どのような記号が許されるのかを見ていきたいと思います。
RFC5322に準拠したメールアドレス
本来であれば、RFC5322に準拠したメールアドレスには対応すべきです。少なくともMTAについてそのような実装になっている事を期待することは悪いことではありません。しかし、その他全てが完全にRFC5322に準拠している期待できるほど、標準仕様は守られているものではありません。
RFC5322でのメールアドレスのローカル部にはdot-atom、quoted-string、obs-local-partの三つがあります。
- dot-atomは私達がよく目にするメールアドレスであり、英数字と記号
.!#$%&'*+-/=?^_`{|}~
でから作られます。ただし、先頭の.
、末尾の.
、連続する..
はできません。
- quoted-stringは
"
で囲むことによって.
の制限をなくし、ASCIIの他記号も使えるようにしています。ただし"
と\
は\"
と\\
のようにエスケープする必要があります。
- obs-local-partは廃止された書き方であるため、使うべきでは無いでしょう。
実際の所、MTAを除けば、後述のHTML5のようにdot-atomしか考慮されていない場合がほとんどです。また、docomoでメールアドレスに連続する..
が昔は設定できた等、準拠しないメールアドレスがしばしば使われる事もあったことも注意すべきです。メールアドレスを扱うシステムを作る側としては準拠するパターン全てを考慮したいところですが、メールアドレスを作る側としては、dot-atomに準拠した場合であればだいたいうまくいくと期待できると考えるべきでしょう。
HTML5では<input>
でtype="email"
を使うことができます。この時、ブラウザでは妥当なメールアドレス(valid e-mail address)であるのかの判定が行われます。その時のローカル部については非常に単純で英数字と記号.!#$%&'*+-/=?^_`{|}~
からなります。
この妥当なメールアドレスはRFC5322のdot-atomに似ていますが、完全には準拠していません。準拠していない部分は、先頭の.
、末尾の.
、連続する..
を許しているところです。さらに、qutode-stringは一切考慮していません。
今後、Web入力において、<input type="email">
は積極的に使われていくと考えられます。Webシステムが当たり前になっていく現代において、この仕様は無視できるものではありません。HTML5において妥当なメールアドレスになるように、つまりqotued-stringは使わず、dot-atomを生成すべきでしょう。
Postfixのallow_min_user=no
による制限
Postfixにはallow_min_userという設定があり、この設定がyes
でない限り、ローカル部が-
から始まるメールアドレスの場合は、受け取りを拒否します。デフォルトはno
であり、つまり、インストール直後の何も設定していない(何も書いていない)状態では拒否します。
このPostfixのデフォルトの動作はセキュリティ上の理由です。そして、多くのPostfixのサーバーではこの設定は有効になっていると考えられます。RFC5322では-
について特に制限はありませんでしたが、先頭に使うべきではありません。
特別な置き換えに使われる記号
Postfixでは、設定次第では、ローカル部にある%
や!
を@
に置き換えて解釈される場合があります。これはさらに内部へリレーする場合やUUCPネットワークに対応するためのものです。%
も!
も問題なく使える記号のはずですが、意図せぬ置き換えを避けるために、通常の利用には避けた方が良いと考えるべきでしょう。
拡張アドレスの区切り記号
MTAの設定次第では記号+
が拡張アドレスの区切り記号として使われる場合があります。例えば、Postfixでrecipient_delimiterが+
の場合、user+ext
はuser+ext
という名前以外にもuser
という名前でも存在や配送先を確認します。
Postfixではデフォルトでは「空」のため無効のようです。しかし、拡張アドレスについて言及しているところのほぼ全てで、サンプルとして+
が区切り文字として使われています。(@ernix さんの回答にある歴史的経緯によるものかと思われます)
メーリングリストでの特別なアドレス
mailman等でメーリングリストを作成した場合、メーリングリストアドレスのローカル部に-bounce
等とつけたアドレスが特別な意味を持つアドレスになる場合があります。つまり、任意の-
を許してしまうと、他のメーリングリストアドレス用の特別なアドレスと被る可能性があるということです。利用者が任意の名前を申請し、自動的に登録されるようなシステムでは、そのようなことがないように注意が必要になります。
シェルやバッチで特別な意味を持つ記号の考慮
Postfixの先頭-
禁止に近いのですが、メールアドレスを処理するプログラムがシェル呼び出しで処理すると言った場合、不用意なシェル展開で思わぬバグを起こす可能性があります。たとえば、次のようなRubyプログラムを想像してみてください。
temp = "/tmp/temp.mail"
addr = 'a`shutdown`[email protected]'
system("/usr/lib/sendmail #{addr} < #{temp}")
もちろん、このプログラム自体が質の悪い(プログラムの内容によっては脆弱性がある)と言ってもいいと思いますが、内部用の処理に作られるプログラムは、しばしばこういった点の考慮が抜けていることがあります。そう言うことを事前に防ぐ意味で、シェル展開時に単独で意味がある記号#$&'*?`|~
等は除外した方が良いかもしれません。
数字のみの危険性
非常に私事ですが、私の所の組織では、その昔0
から始まる数字のみのユーザーが登録されようとしたことがあり、内部処理の途中で数値として変換され、その後、0
を除いた数字のみユーザーとして一部のシステムに登録されたという事態が発生しました。そのユーザーは削除して、別の名前になったのですが、削除処理も途中でおかしくなって連携するシステム群にゴミが残り続けたというのがありました。
プログラムのバグと言えばその通りですが、当時はシェルやPerlを組み合わせて作られたプログラムだったので、あまりそういった点は考慮せずに作られていました。そういった古いプログラムがあることを考慮するとユーザー名の先頭は英字のみに限定するなどした方が良いかもしれません。(実際に、内の組織はそれ以降先頭は英字のみになりました。)
主なクラウドサービスで使用できる記号
いまやオンプレでメールサーバーを運用することは、莫大なコストの割に可用性が高められず、セキュリティ等のリスクが高くなるばかりで割に合わなくなっています。法的なリスクを飲めるのであれば、G SuiteやOffice 365等のクラウドサービスへの移行を真剣に検討することが求められることも少なくありません。
将来、G SuiteまたはOffice 365に移行するとなったとき、問題になるのは今のメールアドレスをそのまま使えるかどうかです。もし、使えないメールアドレスがあった場合、利用者にメールアドレスの変更を依頼する必要があり、継続して使えないメールアドレスはビジネス機会の損失にも繋がります。全員ドメインを変えて、旧アドレスを転送するサーバーが永遠に残るという事例も珍しくありません。ですので、ユーザー名がメールアドレスとなるときは、ユーザー名に使える記号を調べておくのは必須です。
なお、これらはユーザー名としてであることに注意してください。エイリアスとしては他の記号をメールアドレスに設定できる可能性はあります。(詳細は未確認ですが、gmailのタグ付けのように特別な意味になる記号も注意すべきです。)
また、ユーザー名としては大文字小文字は無視されることに注意してください。大文字小文字無視はメールアドレスとして必須という訳ではありませんが、ほとんどのシステムでは無視されます。
まとめ
もし、ユーザー名としても使うようなメールアドレスであれば、次のようにするとほとんどのリスクが回避できるかと思います。
- 英小文字と数字と三つの記号
-
と_
と.
のみとする。
- 先頭および末尾は英小文字と数字と記号
_
のみとする。※先頭は英小文字のみというのもあり。
- 連続する
..
は含めてはいけない。
- 同一ドメインでメーリングリストを運用する場合は、自動生成されるアドレスと被らないように考慮する。
ユーザー名と独立しているエイリアスやメーリングリスト等であれば、記号#$&'*+/=?^`{|}~
も許可しても良いかもしれませんが、G SuiteやOffice 365への移行を考えているのであれば、事前に調査をしておいた方が良いでしょう。
逆の立場、つまり、任意のメールアドレスを扱うシステムを作るのであれば、HTML5のvaild email-address準拠が一番現実的かも知れません(少なくともWebシステムの場合はフロント側の実装が一番楽です)。quoted-stringを使っているメールアドレスは(私が知る限り)見たことがないからです。ただ、.
の扱いは内部のMTAによっては対応しきれない場合がありますので、注意が必要ですし、それがPostfixの場合は-
から始まるメールアドレスは弾かれてしまうかも知れません。(MTAに渡す段階でquoted-stringにするという方法も無い事は無いですが)
The "+" signals that subsequent octets are to be interpreted as elements of the Modified Base64 alphabet until a character not in that alphabet is encountered.
と規定されていて、+
記号が特別な意味をもっていた時期があったのかもしれません。