Rubyのモジュールを使う目的はだいたい次の三つです。
- 名前空間
- ユーティリティクラス
- Mixin
それぞれC#ではどうするのかを見ていきましょう。
名前空間として使う場合はそれほど難しくありません。C#ではnamespace
を使えばいいだけです。ただ、名前空間の構成の仕方が全く違いますので、名前を分けるのに使う機能として、それぞれモジュールやnamesapce
を使うと考えてください。
ユーティリティクラスというのは、特定のオブジェクトやクラスから独立したメソッド類を集めた物です。Rubyではモジュールがその役目を担いますが、JavaやC#ではクラスで実装するためユーティリティクラスと言われます。Rubyでユーティリティクラスとしてモジュールを使うときは、module_function
を使ってメソッドをモジュール関数にします。C#の場合はstatic
メソッドにします。RubyのMath
とC#のSystem.Math
がこの使い方になりますが、Rubyの方はモジュールであり、C#の方はクラスで実装されています。
最後のMixinについてですが、これは共通のメソッドを通常の継承とは別に持たせる機能です。RubyのComparable
やEnumerable
がこのMixin用に用意されたモジュールと言えます。Rubyではeach
メソッドを適切に定義して、Enumerable
をMixinさせると、map
やselect
と言ったメソッドを使うことができます。このように、特定のメソッドから派生したメソッドを個別に定義せずに、共通で定義しておいて、コードを簡潔にするという機能です。Mixinと同様の働きができる物として、trait(PHP等)や多重継承(C++、Python等)があります。多重継承が出来ない単一継承だからこそ、この機能があると言っても良いでしょう。
このMixinまたはそれと同等の機能についてですが、現在のバージョン(7.2)では、C#にはありません。ただ、ライバルであるJavaにはインターフェースデフォルトメソッドというMixin相当の機能が搭載されたため、将来同じような物が搭載される可能性はあります(私は可能性が低いと思っていますが)。
さて、RubyのEnumerable
相当になりそうなものにC#にはSystem.Collections.Generic.IEnumerable<T>
があります。こちらも同様に、GetEnumerator()
メソッドを適切に定義すればSelect()
やWherer()
などがメソッドのようにつかえるようになります。あれ、結局はRubyのEnumerable
と同じことができているじゃないかと思うでしょう。それは半分正解で半分間違いです。
これは拡張メソッドというC#の機能であり、拡張メソッド自体はただのstatic
メソッドにすぎません。C#は呼び出しの方に工夫をしました。ユーティリティクラスを作るような形でstatic
メソッドを作成するのですが、このとき拡張メソッドとして定義する(仮引数にthis
修飾子をつける)とあたかもインスタンスメソッドのように呼び出せるようにしたのです。
using System;
public interface IIntNum
{
int Value();
}
public static class IntNum
{
public static int Double(this IIntNum num)
{
return num.Value() * 2;
}
}
public class IntBox : IIntNum
{
public int x;
public int Value()
{
return this.x;
}
}
public class MainClass
{
public static void Main(string[] args)
{
var ib = new IntBox{x = 3};
var x = IntNum.Double(ib); // 通常のstaticメソッド呼び出し
Console.WriteLine(x); // 6
var y = ib.Double(); // 拡張メソッドとしての呼び出し
Console.WriteLine(y); // 6
}
}
これは、Mixinやその他の類似した機能のように、インスタンスメソッドとしてそのクラスに追加されたわけではありません。見せかけ上インスタンスメソッドのように書けるというだけで、その本質はstatic
メソッドのままです。しかし、実用上はMixin相当であり、十分であると考えても良いでしょう。
ということで、C#にはMixinまたはそれ相応の機能はありませんが、拡張メソッドを用いることで、見せかけ上同じようにできるとなります。(ただし、その仕組みは全く異なる物ですので、同じことが必ずできるというわけではないことに注意してください。)