ページの英語版にあるコードにはちゃんとコメントが書いてあるのですが、結論からいうと言語仕様に(なるべく)マッチした実装をする(ひとつの)書き方としてこのようにしています。
函数Array.prototype.find
は言語仕様で次のように定義されています:
22.1.3.8 Array.prototype.find(predicate [, thisArg ])
When the find method is called, the following steps are taken:
- Let O be ? ToObject(this value).
- Let len be ? ToLength(? Get(O, "length")).
...(略)
質問にあるコードの第一行目は言語仕様でいう1.の手続きを実装するものです。抽象演算ToObject
はオブジェクトを規則(Table 12)に従ってObject型のオブジェクトに変換します。この処理はObject型にするというより、nullやundefinedで”Throw a TypeError exception.”するためのチェック処理だと考えていいでしょう。ただし、これは内部的な関数なので「ふつうの」JSでは呼び出せません。これに適合する互換コードとして、
// 1. Let O be ? ToObject(this value).
if (this == null) {
throw new TypeError('"this" is null or not defined');
}
var o = Object(this);
なるコードを用いています(より明示的に書けばif (typeof this === 'undefined' || this === null) {
ですね)。
言語仕様における2.の手続きは、1.で得たオブジェクトのlength
プロパティを抽象演算ToLength
演算で数値化しています。
7.1.15 ToLength(argument)
- Let len be ? ToInteger(argument).
- If len ≤ +0, return +0.
- Return min(len, 253-1).
ここではさらに抽象演算ToInteger,min
などを呼び出していますが、要約すると「配列の要素数」として扱うために非負整数の値に変換するものです。他方、演算子>>>
; Unsigned Right Shift Operatorは、
The result is an unsigned 32-bit integer.
とあるように、数値を符号なし32bit整数に”変換”します。これは厳密には等価ではないですが[*1]、bitwiseな処理なのでたぶん最適化されていて高速なことが期待でき(これは言語仕様とは関係ありません)、様々な箇所で数値の整数化として頻繁に用いられるものです。この演算子を用いて抽象演算ToLength
を代替しているのが次のコードです:
// 2. Let len be ? ToLength(? Get(O, "length")).
var len = o.length >>> 0;
このように、言語仕様と比較して実装がどうであるかというのは、動作を保証する意味において重要です。たとえば、length
プロパティが負であっても浮動小数点数であってもあるいはNumber型でなくても[*2]その値でfor (let i = 0; i < obj.length; i++) {
とするコードを書いたとして、通常の利用ではたいして問題になりません。しかし、「これ」を「Array.prototype.find
」にpolyfillとして代入するのは避けるべきであるというのが、Javascriptプログラマの一般的な慣習かと思われます。
[*1]: console.assert(Math.pow(2,30) >>> 0 === Math.pow(2,30));
ですがconsole.assert(Math.pow(2,50) >>> 0 !== Math.pow(2,50));
です。
ただし、array indexが+0 ≤ i < 232-1と規定されていることから、配列の長さを扱うだけであれば問題はありません。
[*2]: 一般的にはArray
型オブジェクトのlength
プロパティに負の値は許容されませんが、Array.prototype
の函数は意図してArray
型以外にも使えるよう一般化されて実装されていることが知られています。