OSSのコードを見ているとたまに浮動小数点の値に下記のような
float f = 1.f;
double d = 1.;
少数部分を書かない記法を見かけます。これは1.0f, 1.0と書く場合と比べて何か違いがあるのでしょうか?
こういう書き方の時は、あれこれというニュアンスを含むことが多い、といった回答でもOKです。
C/C++コンパイラから見れば 1.0
および 1.
ともに、構文要素としては C: 浮動小数点定数(floating-constant) / C++: 浮動小数点リテラル(floating-literal) です。両者は全く同じものとして扱われます。
プログラマ視点としては、下記いずれかではないでしょうか:
1.0
なら2桁/1.
なら1桁。C11規格書のドラフト(N1570)を調べてみました。
6.4.4.2 Floating constants (N1570 p.66) より
5 Floating constants are converted to internal format as if at translation-time. The conversion of a floating constant shall not raise an exceptional condition or a floating- point exception at execution time. All floating constants of the same source form75) shall convert to the same internal format with the same value.
75) 1.23, 1.230, 123e-2, 123e-02, and 1.23L are all different source forms and thus need not convert to the same internal format and value.
この記述によれば、同じソース形式であれば同じ内部フォーマットである必要はありますが、異なるソース形式の場合は、同じ内部フォーマット、同じ内部値である必要は無いとのことです。よって、1.0
と1.
が必ず同じになるとは限らない可能性があります。
しかし、その後のRecommended practice(推奨される方法)として、次のように書かれています。
7 The translation-time conversion of floating constants should match the execution-time conversion of character strings by library functions, such as strtod, given matching inputs suitable for both conversions, the same result format, and default execution-time rounding.76)
76) The specification for the library functions recommends more accurate conversion than required for floating constants (see 7.22.1.3).
strtod
などと同じように動作するとあります。strtod
では丸め誤差等の方法をどのようにするのかが厳密に定義されており、有効桁数範囲内の10進数表記で同じ数字は必ず等値と扱われるようになっています。そのため、実際の演算では、どんな内部フォーマットを使われているかは影響が無いと思われます。
※ 浮動小数点数が等値かどうかの判断は単純なビット列の一致ではありません。ビット列が異なっていても等値と判断される場合があります。
現実的な話をすると、ほとんどの実装では浮動小数点数をIEEE 754のbinary32(単精度)とbinary64(倍精度)で実装しています。IEEE 754に基づいた変換では内部フォーマットに違いが出ることは無いと思われます。(ここら辺はIEEE 754にそこまで詳しくないのであやしいです)
※ IEEE 754のbinary32とbinary64は、Cの仕様上のfloatとdouble、および、long doubleの要件を満たしますが、それらを使用しなければならないという逆の要件はありません。Cでは2進数以外での実装した場合の動作も定めています。(JavaやECMAScriptにはIEEE 754のbinary32やbinary64でなければならないという要件がありますが、Rubyなど実装依存(ほとんどの場合はCでの実装)とする言語も多いようです。)
ビット列に違いが出るかどうかはunionで無理矢理調べることができると思います。
#include <assert.h>
#include <inttypes.h>
#include <stdint.h>
#include <stdio.h>
union dd {
double d;
uint64_t u;
};
int main(void)
{
assert(sizeof(double) == sizeof(uint64_t));
union dd x = {.d = 1.0};
union dd y = {.d = 1.};
printf("%016" PRIX64 " : %016" PRIX64 "\n", x.u, y.u);
return 0;
}
C++については、N3242をさらっと見た限り、正しくスケーリングを行うことしか書いて無く、上記のような記述は見られませんでした。
以下のような簡単なプログラムを用意してそれぞれアセンブルして出力してみました。
結果として違いは出なかったため、どちらの書き方でも言語仕様としての差異はないでしょう。
(もっと複雑なコードや、コンパイラによっては違いが出るのかもしれませんが、もっと詳しい方が補足されると信じます)
コメントでも書かれているように、コーディング規約としてどうするか、といった問題だと思います。
test1.c
#include <stdio.h>
int main() {
float f = 1.f;
double d = 1.;
printf("%f, %lf", f, d);
return 0;
}
test2.c
#include <stdio.h>
int main() {
float f = 1.0f;
double d = 1.0;
printf("%f, %lf", f, d);
return 0;
}
アセンブル後はどちらも以下のようになる
.section __TEXT,__text,regular,pure_instructions
.macosx_version_min 10, 11
.section __TEXT,__literal8,8byte_literals
.align 3
LCPI0_0:
.quad 4607182418800017408 ## double 1
.section __TEXT,__literal4,4byte_literals
.align 2
LCPI0_1:
.long 1065353216 ## float 1
.section __TEXT,__text,regular,pure_instructions
.globl _main
.align 4, 0x90
_main: ## @main
.cfi_startproc
## BB#0:
pushq %rbp
Ltmp0:
.cfi_def_cfa_offset 16
Ltmp1:
.cfi_offset %rbp, -16
movq %rsp, %rbp
Ltmp2:
.cfi_def_cfa_register %rbp
subq $32, %rsp
leaq L_.str(%rip), %rdi
movsd LCPI0_0(%rip), %xmm0 ## xmm0 = mem[0],zero
movss LCPI0_1(%rip), %xmm1 ## xmm1 = mem[0],zero,zero,zero
movl $0, -4(%rbp)
movss %xmm1, -8(%rbp)
movsd %xmm0, -16(%rbp)
cvtss2sd -8(%rbp), %xmm0
movsd -16(%rbp), %xmm1 ## xmm1 = mem[0],zero
movb $2, %al
callq _printf
xorl %ecx, %ecx
movl %eax, -20(%rbp) ## 4-byte Spill
movl %ecx, %eax
addq $32, %rsp
popq %rbp
retq
.cfi_endproc
.section __TEXT,__cstring,cstring_literals
L_.str: ## @.str
.asciz "%f, %lf"
.subsections_via_symbols
コンパイラ
Apple LLVM version 8.0.0 (clang-800.0.42.1)
.5
のような整数部を省略した書き方もできる。 タイプ数が少ないかなw