いわゆるレンタルサーバー(Webホスティングサービスの一種であり、共有サーバーとも言われる)では、一つのWebサーバーアプリ(Apache HTTP Serverやnginx)上で独立した複数のユーザーのサイトを動かしています。それぞれのユーザーのサイトはお互いに見えず、実行環境もsuEXEC等の技術でそのユーザーの権限に落とし込んだり、chrootで隔離されたりしていますが、もともとは一つのWebサーバーアプリからフォークして実行されます。
通常、環境変数を渡すとなると、大本のプロセス、つまり、systemdのユニットファイルでEnvironment
を設定する等でWebサーバーアプリに渡します。しかし、Webサーバーアプリは一つしか無いため、一人のユーザーのために環境変数を設定したら、それは全てのユーザーと共有されてしまいます。これは、ユーザー毎に独立した環境を提供するレンタルサーバーとしては、一種のセキュリティホールになってしまいます。また、ユーザー同士で設定したい環境変数が重複した場合、どちらを優先するかで揉めることになるでしょう。
では、どうやってもできないかというと、そうではありません。Apache HTTP Serverであれば、SetEnv
ディレクティブというのがあります。これは任意の環境変数を設定できるというもので、サーバー全体だけでは無く、ホスト毎やディレクトリ毎に設定できます。先程の問題はWebサーバーアプリに環境変数を設定すると全ユーザー共通になってしまうと言うことでした。ですが、これであれば、サイト(バーチャルホスト)毎やディレクトリ毎に任意の環境変数を設定できそうです。しかし、まだ問題があります。これらはApache HTTP Serverの設定になるのですが、それをユーザーに変更させるのは難しいですし、変更の度にサービス再起動する必要があるのも問題です。
まだ、諦めないで下さい。なんと、SetEnv
は.htaccess
でも使用できます。.htaccess
はユーザー毎、もっと正確に言えば、公開するディレクトリ毎に設定できます。プログラムが置いてあるところのディレクトリに.htaccess
を置いて、そこにSetEnv
を使えば、任意の環境変数を使えると言うことです。これなら、ユーザーは自分の領域で自由に設定できますし、サービス再起動などの面倒な事も不要になります。ただ一つ問題があるとすれば、.htaccess
は使用できるディレクティブを制限している場合があると言うことです。(.htaccess
で使用できるディレクティブはApache HTTP Serverの設定で制限できます)
前置きが長くなりました。次の条件を満たすレンタルサーバーであれば、環境変数は使えます。
.htaccess
が使用できる。
.htaccess
でのSetEnv
ディレクティブの使用が許可されている。
これがXserverや他のレンタルサーバーで使えるかどうかと言うとわかりません。Xserverは.htaccess
を使用できるようですが、どのディレクティブが使えるかどうかの情報はありませんでした。実際に設定してみて試して見るしか無いと思われます。
ここまで来て、一つ注意点があります。なぜ、APIキーは環境変数に設定すべきかと言うことです。プログラム全体をGitHubなどのレポジトリで管理している場合、コードの中にAPIキーを入れているとそれもレポジトリに上がってしまいます。それがもしパブリックなレポジトリであったら、APIキーを世界中に公開されてしまうということです。公開されたAPIキーはあっという間に悪用されます。そうなれば、良くてアカウントBAN、サービスによっては数百万円の使用料請求と洒落にならない事態に陥ります。
先程、.htaccess
をSetEnv
を使用すればいいと書きました。ちょっと待ってください。その.htaccess
は誰にも見られるような事になっていないでしょうか?ほとんどのサーバーでは.htaccess
へのアクセスは制限がかかっていますが、必ずしもそうとは限りません。自分でちゃんとアクセスできないように設定する必要があるかも知れません。もう一つは、.htaccess
はプログラムと同じ所に置かれるので、先程言ったレポジトリでの管理の場合、一緒に公開してしまう場合があるということです。.htaccess
にrewrite等の設定を入れている場合、一緒に管理したくなるでしょう。そのような場合で、.htaccess
の中にAPIキーを埋め込むのはいい方法とは言えません。
何を言いたいかというと、「APIキーは環境変数に入れれば安全」と思考停止しないでください。 環境変数の設定場所が公開されれば環境変数であっても危険です。 大事なのは、APIキーが書かれている場所が絶対に公開されないようにすることです。一般に、プロセス自体の環境変数で設定する場合は、ソースツリーとは別の場所になるから、環境変数だと安全な場合が多いと言うだけです。レポジトリの除外対象になっている設定ファイルに書く、DBに保存する等、ソースツリー上には現れない物であれば十分だと言うことです。