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前置き

FunctorMonadを理解するためにはコンテキストを理解することが大切と考えます。
コンテキストについては下記記事のように言及しているものがあります(ほかにもたくさんあります)。

引用:

Functor - HaskellWiki

The Functor typeclass represents the mathematical functor: a mapping between categories in the context of category theory. In practice a functor represents a type that can be mapped over.

SwiftのOptional型を極める - Qiita

モナドというのは、モナドでくるまれた中の世界ではモナドを気にせずに処理が記述でき、外からみるとモナドでくるまれているという、外と中を分離するための仕組みです。

コンテキストの私の理解

さて コンテキスト という言葉はそれこそ"文脈"によって意味がすこし変わってきそうですが(Perlにもコンテキストという考えがありますし)、Hakellに置いてコンテキストというと、"一度その状態(コンテキスト)に入ったらその影響を外部に漏らしたくない" というような意味合いだと思っています。

>>= を使いたい場面とは?

さて、ここになんのヘンテツもない 引数を受け取って+1して返す関数を定義します

inc x = x + 1

これを Functor を使えば、Maybeコンテキストの仲間に加えることができます。

hoge = Just 1
inc <$> hoge

一方 Monad を使うのであれば、同じように +1 して返す関数は下記になると考えます。

incWrapedJust x = Just(x + 1)

そして使い方は

hoge = Just 1
hoge >>= incWrapedJust

こんな感じ。

でも、ここで疑問に思いました

コンテキストのことを意識しているプログラマなのであれば、わざわざこんな引数と返り値でコンテキストがチグハグな関数を作るでしょうか?

hoge = Just 1
incJustJust (Just x) = Just(x + 1)
incJustJust hoge

こんな風に引数と返り値で同じコンテキストの関数を作って使えば済む話ではないでしょうか?

疑問

  • コンテキストのことを意識しているのであれば、なぜわざわざこんなチグハグな関数をつくるのでしょうか?
    • 作りたい、使いたいタイミングはあるのでしょうか?

たんなる疑問ではお答えしづらいかと思いますので、念の為に回答として期待することを書きます。

たとえば「Haskellでよくつかわれているhogehogeという関数はこういったチグハグな関数なので、使わざるを得ない」や「fugafugaといった場面ではチグハグな関数を作って使いたいことがある」等です。(もちろん他の私の想像もしていないような回答でもよいと思います)


追記:

@YAMAMOTO Yujiさんの回答でチグハグな関数が生まれる(使いたい)場面がとてもよくわかりました。 実際に試してみようと下記コードを書いてみました。

import qualified Data.Map as Map 

dict = Map.fromList [("key1", "val1"), ("key2", "val2")]
f x = Just ("Mr." ++ x)

Map.lookup "key1" dict >>= f -- Just "Mr.val1"

これで確かにチグハグな関数が生まれる例はわかったのですが、 >>= を使いたい場面がまだわからないままです。上記コードの f関数 は 私がはじめに書いた incWrapedJust x = Just(x + 1) くらい現実的ではない関数に感じます。

たとえば、 key1で取り出した値をさらに別のキーにして取り出すのであれば多少現実的かなと思い下記のコードを書いてみたのですが、

import qualified Data.Map as Map 

dict = Map.fromList [("key1", "key2"), ("key2", "val2")]
Map.lookup "key1" dict >>= Map.lookup dict

エラーになってしまいました。(上記のコードを成功させたいわけではなく、 >>= と処理がつながっていく自然な例が知りたいです。上記が動けば、同じデータ構造からそんな検索かけることあるかよって気持ちにもなりますが、すこしは自然なコードかと思います。)

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  • do 記法(do notation)はご存じですか?
    – nekketsuuu
    2020年9月1日 13:00
  • do は見たことはあります。無意識にprintのときに使っています。 2020年9月1日 13:01
  • @nekketsuuu さん。もっというと IO系を閉じ込めたいときになんだかMonadを使いたいようですが、なんでなのかわかっていないです。 2020年9月1日 13:12
  • (主題から若干外れますが)身近な例としては main = getLine >>= print . f . map read . words (たとえば f:: [Int] -> Int) みたいな書き方が出来て便利だったりもします.
    – Yosh
    2020年9月2日 0:22

2 件の回答 2

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一方 Monad を使うのであれば、同じように +1 して返す関数は下記になると考えます。

incWrapedJust x = Just(x + 1)

この例があまり現実的ではないので、確かにこのような関数は定義しないでしょう。

Maybeにおける「チグハグな関数」例

実際のところ、仰るような「チグハグな関数」は現実世界にはたくさんあります。
典型的なのはcontainersパッケージのData.Map.Strictモジュール、lookup関数です。

この関数は、Map型という連想配列(RubyでHashと呼ばれるものに相当します。SwiftではDictionaryと呼ぶみたいですね)の型に対して、指定したキーに対応する値を返します。SwiftやRubyで言うところのsome_hash[key]に相当する関数です。
(具体例は長くなるので後ろに追記しました)

lookup :: Ord k => k -> Map k a -> Maybe a 

このとき、lookupの結果はキーに対応する値が入っていない可能性があるので、値が入っていないかも知れない(だから事前にチェックする必要がある)Maybe aという文脈を持った値になります。
一方、lookupの引数、つまりキーや検索するMapそのものは基本的に所与のものであるはずで、lookupがキーやMap自体の存在をチェックするのは、煩雑でしょう。それはlookupに引数を渡す側の責務です。

このようにして、引数と戻り値で文脈が異なる関数ができあがります。

IOにおける「チグハグな関数」例

それから、すでにお使いであろうputStrLn関数もString -> IO ()という型なので、恐らく仰る「チグハグな関数」に該当するはずです。
IOにおける「文脈」とは、「IOアクションを実行して、結果となる値を取得すること」に該当します。
仮にputStrLnIO String -> IO ()という、同じ文脈をそのまま使い回すような型であった場合、putStrLnが引数として受け取ったIOアクションを実行しなければならなくなります。本来やりたいことは文字列を表示することなのに、余計なIOアクションを実行してしまうわけです。
なので、putStrLnが欲しいのは単なる、IOという文脈を持たないStringなのです。

IOの例えはちょっとわかりづらいかも知れません。そもそもIOアクションってなんなの?ということが気になったらIO モナドと副作用や、手前味噌で恐縮ですがHaskellのIOは他の言語でいうところの関数オブジェクトとよく似てるよ、という話をご覧ください。

そもそも「文脈」とは

ちなみに、Monadで言うところの「文脈」というのはここまで説明したとおり、

  • Maybeで言えば「値が入っているかどうか事前にチェックすること」
  • IOで言えば「値を取り出すために事前に実行すること」

といった具合に、「他の関数に値を渡す前にやらなければならない操作」と考えると、しっくりくるのではないかと思います。
これは、具体的に言えば各種Monadのインスタンスにおける>>=の定義がそのまま相当しますし、do記法で言えば

do
  result <- action1
  action2 result
  action3

の、各actionの「間」でやっていることに相当します。
まさにアクションとアクションの「間」にあるものが「文脈」なのです。

追記: >>= の使用例

お待たせしております。ちょっと長くなってしまいましたが例を書きました。詳細はソースのコメントをご覧ください。

ここで使用しているMaybeに対する>>=case式に変えたり、doにおける<->>=に変えてみると、それぞれのありがたみがよくわかるのではないかと思います。
変え方についてわからないことがあればまた別に質問してください
また、解説が不十分だと感じたらコメントをください。

import           Data.Maybe (listToMaybe)
import           System.Environment (getArgs)
import qualified Data.Map.Strict as M

-- コマンドライン引数として受け取ったユーザー名から、
-- ユーザーのお気に入りを取り出すプログラム

-- | ユーザーの名前をキー、ユーザーのIDを値としたRDBのテーブルもどき
userByName :: M.Map String Int
userByName = M.fromList
  [ ("foo", 1)
  , ("bar", 2)
  , ("baz", 3)
  ]


-- | ユーザーのIDをキー、ユーザーのお気に入りを値としたRDBのテーブルもどき
favoritesById :: M.Map Int String
favoritesById = M.fromList
  [ (1, "ice cream")
  , (3, "ramen")
  ]


main :: IO ()
main = do
  -- 一つ目の >>= を使っている例。
  -- getArgs :: IO [String] という型なので、コマンドライン引数を取り出すアクションを実行して
  -- 何でもない普通の[String]を取得する
  args <- getArgs
  let mFavorites :: Maybe String
      mFavorites = do
        -- 二つ目の >>= を使っている例
        -- listToMaybeでコマンドライン引数の先頭の要素を取り出して、
        -- Maybe Stringじゃない、ただのStringを取得する
        name <- listToMaybe args
        findFavoritesByName name
  print mFavorites


-- | 三つ目の >>= を使っている例。
--   RDBのJOINをするような要領で、
--   ユーザーの名前からユーザーのお気に入りを取得する
--   どちらかのテーブルに対応する値がなければ
--   直ちにNothingが返る
findFavoritesByName :: String -> Maybe String
findFavoritesByName name = do
  userId <- M.lookup name userByName
  M.lookup userId favoritesById
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  • ありがとうございます。チグハグな関数が生まれる背景、よくわかりました。一方 自然な >>= を使う場面を知りたく質問を追記しました。余力があればお答えいただけると幸いです(申し訳ありません)。 2020年9月1日 14:06
  • 取り急ぎ。do記法で <- を使うと裏側で>>=を使っているので、do記法で<-を使った例はすべてそのまま自然な>>=の例となります。 2020年9月1日 14:32
  • すみません、「疲れたから割愛します」といいながら他の箇所にエラい力入れてんじゃねぇか!って感じでしたよね。例を追記しました。 2020年9月2日 0:32
  • 1
    書き換えに成功しました findFavoritesByName' name = M.lookup name userByName >>= \x -> M.lookup x favoritesById 2020年9月2日 5:10
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おそらくモナドの良さを分かっていただければこの「ちぐはぐ」を理解いただけると考えたので、その説明をしてみます。

>>=、あるいは bind とも呼ばれるこの関数には色々と良い性質があるのですが、こと「プログラムをシンプルに書きたい」という側面から見ると、do 記法(do notation)と呼ばれる略記法と一緒に使うことで真価を発揮します。

Maybe Int 型の値を受け取り、もし Just x が入っていれば Just (x + 1) を返す関数を実装することを考えてみましょう。この関数はパターンマッチを使うことで以下のように書けます。

incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe Nothing = Nothing
incMaybe (Just x) = Just (x + 1)

この関数では、Nothing なら NothingJust なら中身を取り出して演算した上で再度 Just で包む、ということをしています。Maybe 型を使った処理を書くときには良く出てくるパターンです。

この関数は >>= :: Maybe a -> (a -> Maybe b) -> Maybe breturn :: a -> Maybe a を使って以下のように書くこともできます。型をよく見て、これで良いことを確認してみてください。たとえば Nothing を与えたら Nothing が返ってくるでしょうか。Just 42 を与えたら Just 43 が返ってくるでしょうか。

incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe x = x >>= (\y -> return (y + 1))

さて、>>= を使った実装だと、さっきまであったパターンマッチはどこに消えてしまったのでしょうか。実はさっきまで存在していたパターンマッチの部分を >>= が担ってくれています。そもそも Maybe モナドの >>= はたとえば次のように実装されるのでした。

(>>=) :: Maybe a -> (a -> Maybe b) -> Maybe b
Nothing >>= _ = Nothing
(Just x) >>= f = f x

これが >>= の便利なところです。Maybe という「値がある "かもしれない"」という計算を上手く処理してくれるのです。これがちゃんとできるということを確かめるにはモナド則というルールを確認することになるのですが、ここでは詳細には立ち入らぬこととします。

ところで、この >>= を使った実装はいささか大変です。たかが +1 するためのことに記号が乱立しています。そこで、もっと簡単に実装するために出てくるのが do 記法です。do 記法を使うと上と同じことをする関数を以下のとおり書くことができます。

incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe x = do
  y <- x
  return (y + 1)

詳しくは別途調べていただきたいのですが、これは先ほどの >>= を使った実装と同じ挙動を表しています(構文糖衣になっています)。NothingJust x の取り扱いをモナドの側に任せ、コアとなるロジックの部分だけを書けるのがお分かりかと思います。

もう少し複雑な例を見て見ましょう。Maybe Int をふたつ受け取って、足して Maybe Int を返す関数です。

plusMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int -> Maybe Int
plusMaybe x y = do
  a <- x
  b <- y
  return (a + b)

この関数はふたつの引数のどちらかが Nothing であれば Nothing を返し、どちらも Just x の形であれば中身を足して Just x の形で返します。「中身を足す」というロジックになるべく注目して関数の中身を書けています。

このように >>= または do を使って書いていくことによって上手く計算を分離し、シンプルに書けるというのが >>= の良さのひとつです。質問文中に引用されている文章から採用して言い換えると、「外と中を分離するための仕組み」のための道具のひとつが >>= なのです。


余談:incMaybe はこう書くこともできます。(+ 1) というのは \x -> x + 1 とほぼ同じ意味です。

incMaybe :: Maybe Int -> Maybe Int
incMaybe = fmap (+ 1)

>>= で必要とされていたのは Int -> Maybe Int な関数ですが、fmap では Int -> Int な関数を使って実現できます。

一方、plusMaybe くらいになってくると Int -> Maybe Int な関数を使って処理を繋げていく書き方も便利そうなのがなんとなく感じられるのではないかなあ……と思っています。

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  • do記法への書き換えがよくわかりました! 2020年9月2日 0:20

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